与信管理講座「ケースに学ぶ営業担当者の債権管理」(第2回)

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与信管理講座「ケースに学ぶ営業担当者の債権管理」(第2回)

                                     リスクモンスター株式会社 メルマガ事務局
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 <CONTENTS>
   ■与信管理講座「ケースに学ぶ営業担当者の債権管理」(第2回)
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      ◆◆関連部署等にもご回覧頂き、基礎知識の習得にお役立て下さい。◆◆
    ◇◇バックナンバーは、画面右の「最近の記事」からご覧になれます。◇◇
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        ~与信管理講座「ケースに学ぶ営業担当者の債権管理」~     
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前回より、詳細な事例に基づくケーススタディ形式にて、

取引の過程で営業担当者が注意すべき与信管理上のポイントを解説しております。

第2回 「架空取引・環状(循環)取引に要注意」

 

1. 取引形態・ルート

今回のケーススタディに登場する各社間の関係・取引形態を図で表しております。

 

2. 取引経過
① ビジネス商事は、平成X年7月2日頃、パソコンに使用されるある電子部品の

ブローカーであるB社のO社長から本件取引の紹介を受けた。ビジネス商事は今まで

この電子部品を扱った経験はほとんどなかった。また、B社との取引実績もなく、O社長

とは多少面識がある程度であった。

O社長は、「I社が自社取扱の電子部品の購入を希望しているが、決済条件が合わない。

I社は毎月末締め90日後払いを希望しているが、自分としては毎月末締めで翌月末に

現金で欲しい。そこで、2社の間に介入して決済条件を調整する会社が必要である。」

「I社は客先からの注文により、電子部品を直ちに納入して欲しいといっており、実は

既に納入済みである。代金は20百万円である。ぜひビジネス商事に介入してほしい。」

とビジネス商事に取引の介入を要請してきた。

 

②ビジネス商事は、I社について調べた結果、与信的には問題ないと判断し、ビジネス

商事からB社への支払いは、I社から物品受領書を入手し、かつ口頭でもI社に納入が

完了している旨の確認をとった後とすることを条件として、本件取引を行うこととした。

 

③ビジネス商事は平成X年7月7日にB社のO社長と一緒にI社を初めて訪問した。

ビジネス商事はI社の担当者であるS部長からビジネス商事宛の注文書をその場で

受領した。ビジネス商事はO社長より商品は納入済みと聞いていたため、S部長に

商品の受領確認を求めたところ、S部長はその場で客先に電話で確認し、ビジネス

商事に「確かに受け取っております。どうもありがとうございました。」と答えた。そこで、

ビジネス商事はS部長に請求書、納品書および物品受領書を渡し、物品受領書には

捺印を貰い、その場で返して貰った。

その後、S部長が客先の担当者を紹介しますといって、K社のT課長を呼び、ビジネス

商事に紹介した。ビジネス商事はこのとき初めてI社の販売先がK社であることを知った。

 

④その後1週間後、I社より突然追加の発注書がファックスで届いた。前回の代金と

合計するとI社に対する与信限度額を超過するため、B社のO社長にその旨を伝え、

取引を断ったところ、O社長から、「一部でもいいから取引できませんか?」との打診

があり、ビジネス商事は社内で検討した結果、これを受諾することとした。契約条件は

代金額を除き、前回と同じであった。

 

⑤ビジネス商事は、1回目の取引につき20百万円を、続いて2回目の取引について

も約定通りB社に支払った。ところが、I社からは支払日を過ぎても売買代金の入金が

なかったため、I社に確認したところ、I社は「商品を受け取っていないので、1回目も

2回目の取引についても売買代金は一切ビジネス商事には支払えない。」と回答してきた。

 

 

3. 対応策と事後判明した事実

①支払拒否の回答を受け、ビジネス商事が急いで調査したところ、次の事実が判明した。

ⅰ.本件取引がA社→B社→ビジネス商事→I社→K社→A社という『環状(循環)取引』の

一部であったこと。

ⅱ.本件取引には実際に商品が存在したかどうか不明で「架空取引」のおそれが

非常に高いこと。

ⅲ.K社がI社の本社に間借りして営業を営んでいたこと。

ⅳ.B社のO社長がA社のN社長に借金をもっており、全てN社長にいわれるままに

動いていたこと。

ⅴI社S部長を通じて、K社が実際には商品を受け取っていないにもかかわらず、

A社のN社長の指示の基、 ビジネス商事に対して商品は受領済みであるという

虚偽の発言をしていた可能性が高いこと。

 

つまり、資金繰りに窮したA社のN社長が全ての絵を描き、B社のO社長、I社のS部長

K社のT課長を使って、ビジネス商事を架空・環状(循環)取引に引き込み、売買代金を

ビジネス商事からだましとったのである。

 

②ビジネス商事は、I社が物品受領書も発行し、口頭でも受領を確認している以上、

支払義務は免れ得ないとして、I社に対して売買代金の支払を請求したが、I社は現実に

商品の引渡がないことを理由に頑なに支払を拒否したため、ビジネス商事は法廷の場で

争わざるを得ず、I社を相手方として平成X年11月に売買代金請求訴訟を提起した。

 

③ビジネス商事は、平成Y年4月に第1審で勝訴の判決を得たが、現在控訴中である。

それまでに多くの労力と費用を費やしており、失ったものはもはや取り返すことはできない。

悔やまれるのは、1回目の取引の後、この取引の不自然さに気づいていれば、2回目

の取引は防げたにもかかわらず、安易に2回目の取引に応じ、徒に損失を拡大させて

しまったことである。

 

 

4. 問題点・ポイント・反省

①レディーメイド取引、取引先主導の取引には特に徹底した商流、商品の確認が必要!

仕入先と販売先との間の既に出来上がった取引(レディーメイド取引)にビジネス商事が

介入する場合、商品の数量、価格、引渡し方法等、取引の基本条件が既に決められて

おり、単に書類の作業だけで口銭を稼げる取引が多くあります。

ビジネス商事の販売先の信用力は当然必要ですが、商流(メーカーからエンドユーザー

までのモノの流れ)、商品知識、在庫確認を怠ると、商品が存在しない「架空取引」

商品が存在してもエンドユーザーがおらず、当事者間でぐるぐる商品が回る「環状(循環)

取引」になってしまっている恐れがあります。仕入先からの注文書、倉庫業者からの在庫

証明書・出荷報告書等がビジネス商事の販売先から送られてくる取引や、ここで紹介した

ケースのように、決済を除き商品の納入等が全て完了している取引などは特に注意を要し、

回避すべきと言えます。

 

②一部でも取引をしてほしいという要請に対しては、その背景を十分に調査することが必要!

取引歴の浅い取引先から、ビジネス商事の与信限度額の範囲内に収まる金額でいい

から売ってほしいという要請があった場合には注意が必要です。一見、与信限度額を

超えない以上、与信的に問題ないと判断しがちですが、相手が本当に需要に基づいて

注文しているかどうか調査する必要があります。与信限度額超過を理由に断られても、

次には「与信限度額の範囲内でよい、残りはなんとか他をあたってみる。」などと、巧みに

ビジネス商事を取引に引き込み、架空取引や環状取引で売買代金をだまし取ろうとする

ことがあります。ビジネス商事としては、このようなアプローチをしてくる取引先に対しては、

本当にそれだけの需要背景があるのか、最終需要家がどこなのか、商品を何に使うのか

等を確認することが必要です。

 

③突然の注文、短納期の要請には要注意!

取引先から、「これこれの商品が直ちに欲しい」という要請があった場合にも注意が必要

です。相手方がビジネス商事をだまそうと考えている場合には、ビジネス商事に「架空取引」

または「環状(循環)取引」が判明するまでの間にどれだけ多くビジネス商事からだまし取れるか

が相手先にとっては重要となってきますので、短期間で勝負をかけてきます。したがって、

長年の取引先であったり商品または業界の性質上、突然の注文あるいは短期間での納期

が自然である場合は別ですが、そうではない場合は十分な裏付け調査が必要です。

あまり取り扱ったことのない商品で、しかも新規の取引先からの注文等はもってのほかです。

 

④不慣れ商品での取引は突っ込みが甘くなる!

商品知識がないということは、他人の説明に対する突っ込みが甘くなり、冷静な判断に

欠けてしまいますし、取引形態あるいは契約条件の不自然さを見過ごしてしまうおそれが

あります。それが取引先に頼る取引を形成する原因の一つでもあり、現在もなお残る事故

トラブルの大きな原因の一つです。


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【著者】リスクモンスター データ工場
会社の格付データの更新を中心業務として行うことに加え、与信管理サービスの
企画・開発や、会員企業の与信管理支援コンサルティングサービスの提供まで
担当する、いわばリスクモンスターの“心臓部”。
分かりやすく精度の高い情報を、お客様により早くご提供することをモットーにしている。
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