与信管理講座「ケースに学ぶ営業担当者の債権管理」(第3回)

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与信管理講座「ケースに学ぶ営業担当者の債権管理」(第3回)

                                     リスクモンスター株式会社 メルマガ事務局
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 <CONTENTS>
   ■与信管理講座「ケースに学ぶ営業担当者の債権管理」(第3回)
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      ◆◆関連部署等にもご回覧頂き、基礎知識の習得にお役立て下さい。◆◆
    ◇◇バックナンバーは、画面右の「最近の記事」からご覧になれます。◇◇
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        ~与信管理講座「ケースに学ぶ営業担当者の債権管理」~     
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詳細な事例に基づくケーススタディ形式にて、

取引の過程で営業担当者が注意すべき与信管理上のポイントを解説しております。

第3回 「グループ会社間の債権保全・回収策」

 

1. 取引形態・ルート

今回のケーススタディに登場する各社間の関係・取引形態を図で表しております。

 

2. 取引経過

①ビジネス商事子会社Rは東証1部上場ゼネコンKに対してマンションの建築を発注し、

ビジネス商事子会社Cはその物件に関する資材をK社に納入していた。平成Y年12月に

K社は突然会社更生手続き開始の申立てを行った。通常であれば同じビジネス商事

グループであっても別法人であるから、C社の債権とR社の債務は相殺することができず、

C社の債権は大幅なカット(債権放棄)を余儀なくされる状態であった。

 

②しかし、K社の信用状態に対して事前に警戒していた審査部と営業部は、ビジネス商事

グループ全体の債権の保全を行うため、会社更生申立以前の平成Y年9月より、「R社はK社が

C社に対して負担する債務につき、R社がK社に負担する債務を限度として連帯保証する。」

旨の保証書を作成し、確定日付も取得しており、これによりR社とK社との間で求償権と

請負代金債務とを相殺することができ、C社の債権約75百万円は全額回収することが

できた、要注意先に対する迅速かつ周到な対応により多額の損害を発生させずに済んだ。

 

 

3. グループ会社間の債権の保全と回収方法

ビジネス商事の分社化の流れに伴い、売りはビジネス商事、買いは関係子会社など、

ビジネス商事と関係会社が同一の取引先と取引する場合が多く、その取引先が倒産

した場合は同じグループ会社といっても法人格が異なるため、当然に相殺ができる訳

ではありません。事前に債権保全スキームを構築した上で取引することが重要です。

今回は2つのケースにおける、債権保全策をご紹介します。

 

<ケース1>

ビジネス商事子会社AがX社に債権(売掛金、貸付金債権、保証債務など)を有し、

ビジネス商事本体がX社に債務(買掛金など)を有している場合

※ビジネス商事が債権を有し、子会社が債務を負担している場合はこの逆。

 

保全策①

子会社AとX社、X社とビジネス商事との支払条件が約束手形である場合、日頃から

子会社がX社から入手する手形をビジネス商事が支払のために振出した手形にし、

X社に裏書譲渡させる。万が一X社が倒産した場合でも、子会社Aはビジネス商事

振出手形から回収することができる。

 

保全策②

ビジネス商事から子会社Aに「ビジネス商事の債務金額を限度とした」連帯保証書を出す。

X社が倒産する前からこれを準備しておけば、X社が倒産した場合、ビジネス商事はその時点

でX社に対して負担する債務金額 注1)を限度に子会社Aに保証履行する。ビジネス商事

はX社に対して求償権 注2)を有し、X社との間で自己の債務とこの求償権を相殺する。

 

注1)

「ビジネス商事がその時点でX社に対して負担する債務」とは、ビジネス商事がX社に対して、

他に債権を有している場合は、それらを相殺した後に残った債務を意味する。

ビジネス商事がX社から仕入れた商品を第三者に転売している場合は、その販売先からの

クレームがないことを確認し、ビジネス商事の債務がいくらなのかを把握してから子会社A

への補償額を決定する必要がある。保証を履行してからクレームが発生することが判明し、

X社と相殺しようとしてもできないためである。

注2)

破産法や会社更生法などの各倒産法では、X社が破産の申立や手形の不渡りを出した後に

有した債権(今回は求償権)でもってX社と相殺することはできない(破産法第72条、会更法第49条)。

従って、X社が不渡りを出した後にビジネス商事が子会社Aに保証してもこのスキームでは回収

することはできない。常にグループ間での債権債務ポジションを考えながら、事前に保証書を

作成しておくことが必要。(尚、保証契約はビジネス商事・子会社間で締結できますが、X社を

入れた形のほうがベター。)

 

保全策③

子会社AがX社に対して有する債権をビジネス商事に債権譲渡する。

事前にビジネス商事と子会社Aの間、もしくは3社間で債権譲渡契約を締結する。

X社が倒産した場合、ビジネス商事は子会社Aから譲り受けたX社に対する債権と、

自己のX社に対する債務を相殺する。

 

(問題点)

(a)例えば、売掛金は取引がある都度発生する。債権譲渡は譲渡する債権が発生する都度、

A社がX社に確定日付ある通知もしくはX社の確定日付ある承諾がなければ第三者対抗要件

は具備されない。又、もう一つの対抗要件である債権譲渡登記も同様である。つまり、X社倒産

直前、直後に対抗要件を備えても否認されるリスクがある。

(b)また、そもそも将来債権(将来発生する債権)を譲渡すること自体、法律で認められていない。

判例では特定の場合に限って認められているが、このスキームは上記①、②のスキームと比較

すると保全力に劣る。

 

保全策④

子会社A、X社、ビジネス商事の3社間で予め三角相殺の覚書きを締結する。

3社間で「X社が倒産した場合は、子会社AのX社に対する債権と、ビジネス商事の債務とを

対当額にて相殺する。」旨の相殺契約を締結する。

 

(問題点)

このような3者間での相殺予約契約の効力はこれまで判例も殆どないため

(参考判例:H7.7.18最判)、Xが有するビジネス商事への債権に対する差押権者や破産管財人

等の第三者に対抗できるかどうか明確ではない。当然、X社倒産直前もしくは倒産後に締結した

場合は否認される恐れがある。よって3者間で相殺の合意ができるなら、上記保全策②の

保証形式の方が債権保全の観点からは有効である。

 

 

<ケース2>

ビジネス商事及び子会社AがともにXに債権を有している場合

 

保全策①

ビジネス商事がX社から担保を取得している場合は、子会社Aも共同債権者として担保の

名義人とする。第三者対抗要件として登記が必要な担保は登記の変更が必要で、登記

制度がない担保(有価証券など)は契約書の変更が必要。

※登記が必要な担保の変更例

  不動産根抵当権者→分割譲渡、一部譲渡、債権者の追加

  債権譲渡登記、動産譲渡登記→債権者の追加

 

保全策②

上記①の様にビジネス商事が取得している担保の内容変更について、X社から同意を

得られない場合、ビジネス商事が子会社Aに対して、「担保価値から自己の債権額を差し引いた

金額を上限として」連帯保証する。

注)この場合、被担保債権の範囲に求償権が入っている必要がある。

 

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【著者】リスクモンスター データ工場
会社の格付データの更新を中心業務として行うことに加え、与信管理サービスの
企画・開発や、会員企業の与信管理支援コンサルティングサービスの提供まで
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