「中国不動産業 危ない企業ランキング」調査結果発表(リスモン調べ)
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「中国不動産業 危ない企業ランキング」調査結果発表(リスモン調べ)
リスクモンスター株式会社
データ工場
2021年、中国を代表する不動産グループである「恒大グループ」が債務不履行(デフォルト)に陥り、中国国内のみならず、世界中に衝撃が走った。負債総額は、約2兆4000億元(1元=20円換算で約48兆円)にのぼり、2023年8月には米国で破産法の適用を申請している。さらに、恒大グループだけでなく、そのほかの中国大手不動産業者においても債務不履行が相次いで発生している。
今回は、中国不動産業における危ない企業、つまりは倒産に至りそうな企業についてランキングを作成した。2023年上半期で不動産業の売上業績TOP50にランクインした企業の中で、2022年12月期の財務情報を確認できた39社について評価をする。なお、今回の調査対象である39社は、中国の不動産業法人数1,691,912社(2022年3月時点)のうち、売上高上位約2%に属する企業である。
企業倒産の多くは、事業環境の変化などにより収支が悪化し、債務や買掛金を返済できなくなることで発生する。不動産業においては、建物の売買や不動産開発などに対し巨額の投資を行い、そのリターンを得ることを収益源としているが、十分な投資回収が得られずに、投資のために調達した借入金が資金繰りを圧迫し、経営破綻してしまうというケースが多い。このことから、倒産のシグナルが最も出やすいのが、利益創出の効率性を表す「収益性」指標と、資金確保の安定性を表す「安全性」指標といえる。
今回、収益性に関する指標として「減益率」と「純利益率」、安全性に関する指標として「自己資本比率」と「流動比率」を集計し、それぞれワースト20のランキングを作成した。
<中国不動産業 危ない企業ランキング>
収益性部門
純利益率では、8社において効率的な利益創出が出来ずに赤字計上となっている。ワースト1位の「合景泰富集團控股有限公司」(▲73.16%)では売上高の7割を超える赤字額となっており、2位「金科地产集团股份有限公司」(▲43.19%)と、30ポイント近い差が生じている。(表1)
2022年12月期の純利益と2021年12月期の純利益と比較した増減益率では、調査対象39社のうち26社において前年度を下回っていることから、不動産業の収益性は悪化傾向にある様子がうかがえる。ワーストランキングの上位7社は、黒字決算から赤字決算に転落したことで増減益率が▲100%以上となっており、ワースト1位の「合景泰富集團控股有限公司」では、2021年12月期純利益額の4倍近い赤字計上となっている。 (表2)
連続での赤字計上や急激な大幅赤字への転落は、安全性や資金繰りに与える影響が大きく、倒産の懸念も高まるため、取引には一層の注意が必要である。
安全性部門
自己資本比率は、自社の総資産のうち何パーセントを返済不要な資金で調達できているかを表す指標であり、数値が高いほど財務基盤が安定していると評価できる。
中国では、自己資本比率が40%~60%で安定した資金運用ができ、30%以下になると金融機関からの資金調達が難しくなると言われている。不動産業は、商品の仕入れに多額の資金が必要な業種であるため、他業種と比較して借入需要が高く、自己資本比率が低下しやすい傾向にあるため、2021年12月期における不動産業の平均自己資本比率は、31.7%とやや低い。
かかる中で、今回の調査対象39社のうち36社において、自己資本比率が業界平均値の31.7%を下回っており、その理由として、調査対象39社は、中国不動産業の売上高上位2%に属する大手企業であるが故に、巨額の投資が自己資本比率を押し下げる要因となっているものと考えられる。
しかし、事業特性から自己資本比率が低くなりやすいとはいえ、極端に低い状態では、運転資金が不足した際に資金調達が出来ず、債務不履行(デフォルト)に陥る可能性も高い。ワースト1位の「融創中國控股有限公司」では、自己資本比率が10%を下回っており、資金調達が困難な状態に陥っている恐れがある。(表3)
流動比率は、短期的に支払いが必要な流動負債に対して、返済原資の流動資産の割合を表す指標である。流動比率は200%以上を有している状態、つまり流動資産が流動負債の2倍以上の状態が望ましいとされている。流動比率が100%以下の状態は、すべての流動資産を支払原資として投下しても、流動負債を返済しきれない状態を表しているため、資金繰りが厳しいといえる。
ワースト1位の「融創中國控股有限公司」、ワースト2位の「新城控股集团股份有限公司」においては、流動比率が100%以下であり、流動負債に対する返済原資が不足していることがわかる。(表4)
不安情報
これらの「収益性」、「安全性」指標に加えて、弊社が調査対象企業について入手した不安情報を紹介する。
調査対象39社のうち、現時点で不安情報を入手している企業は5社である。不安情報を取得している企業は、調査対象の39社の中でも純利益率や自己資本比率が特に低く、収益性や安全性の悪化がうかがえる上、入手している不安情報も「支払遅延」など、資金繰りの悪化に関するものであるため、倒産の危険性が高い状態といえる。なお、中には「金科地产集团股份有限公司」のように、既に倒産に至っている企業も含まれている。(表5)(表6)
おわりに
今回のランキングでは、中国国内の不動産業の売上業績TOP50に入るような事業規模の大きな企業においても、近年急激に収益性や安全性が悪化し、倒産の懸念が高まっていることが分かった。特に、収益性と安全性の両面で低評価となっている企業は、倒産懸念が非常に高い状態といえる。
なぜ今、中国の大手不動産業者の収益性や安全性が悪化しているのだろうか。それには、不動産業の業種特性や現在の中国の経済状況が関係している。
前述のとおり、不動産業は建物の売買や不動産開発などに対し巨額の投資を行い、そのリターンを得ることを収益源としている。投資は、金融機関からの借入や、物件の購入者からの前受金を財源としている。
中国政府は、金融緩和の影響で高騰していた不動産価格を抑制するために、2020年に不動産業者への融資や住宅ローンの融資を規制した。その結果、投資の財源を失い資金不足となり、債務不履行(デフォルト)に陥る大手企業が発生してしまった。
中国政府は、現在の状況を打開するために、住宅ローンの引き上げや不動産業者への融資の返済期限の延長を実施しているが、中国の不動産価格は下落しており、今後も、多額の投資を行っている大手企業ほど、投資の回収ができずに資金繰りが窮地に立たされる可能性は高い。
中国企業との取引を行う際には、取引先の規模だけではなく、業界状況や企業の財務状態を加味したうえで、慎重に取引判断を行うべきである。特に、不動産業の場合には、無茶な投資を行っていないか、投資回収の見込みがあるのかを調査することが肝要となる。