取引先の与信限度の見直し方法 (1)与信限度の更新手順

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取引先の与信限度の見直し方法 (1)与信限度の更新手順

はじめに

取引先との取引を継続するに当たっては、当該取引先の信用力を定期的に診断し、与信リスクが変動していないか、取引内容に即した与信限度となっているか、決裁された条件で取引されているかなどを点検し、適切な与信限度を設定することが必要です。

本稿では3回にわたって、与信限度の定義とその見直し手順、また与信管理を強化かつ効率化するルール設定法について説明します。

与信限度額とは

与信限度とは当該取引先に対する与信の最高額であり、取引先の倒産時の貸倒損失の上限となります。したがって、設定した与信限度は、月中、月末のいかなる時点においても与信額が超過しないよう管理することが必要といえます。

与信限度の設定に当たっては適正で実需に合わせた金額とする必要があります。実需に合わせた金額とは、基本的に「月平均販売金額×回収サイト」で算出した平均の売掛債権残高に季節変動などを考慮し、多少の余裕を見て設定するものです。回収サイトには受取手形のサイトだけではなく、売掛期間を考慮に入れる必要があります。

余裕を持ちすぎた与信限度を設定していると、与信額が増加しても与信限度を超過しないため取引の異変を検知することが遅れる危険性があります。与信額が増加している原因には、競合他社が当該取引先の信用力低下を察知して撤退を開始したからということもあり、放置すると危険な状態となっている取引先に対して債権をさらに増加させてしまうこともあり得ます。実需に合わせた金額とすることによって債権が増加する場合には限度増額の申請にて対応し、その時点で取引の増加に異常性が見られないか確認できるようにします。

次にこれが適正かどうかを回収サイトの観点から考えます。回収サイトは自社の納品後に取引先が必要な加工を施し、在庫期間を経て販売し、販売先から現金回収するまでの平均的な期間を考慮して設定することが求められます。業界慣習としての回収期間はそれらを踏まえたものとなっていますが、盲目的に慣習に従うのではなく当該取引において適当かを調べます。長い期間で設定すると与信リスクを増やすだけではなく、取引先に自社が関わる商流によって得た資金がプールされることとなり、他の用途に流用したりした場合に自社への決済資金が不足して回収が滞る危険性もあるからです。

与信限度の期限は、最長1年間とするのが一般的です。見直し時期は、取引先から決算書を取得することができる時期を勘案し、決算期の6ヵ月以内で設定することが適当です。集中管理対象の取引先は決算期の3ヵ月以内に見直す、年2回見直すなどで、管理レベルを上げることもできます。

与信限度の申請見直しを継続的に行うことで、取引先の経営内容や取引内容に対するリスク分析を進めることができ、回収可能性を高めることができると同時に、問題が発生した場合の回収成果を飛躍的に向上させることができます。

与信限度の更新手順

(1) 与信限度の申請

営業部門の担当者はすでに社内格付けが設定されている場合には、格付と申請する与信限度を基に決裁権限表を参照し、審議経路(審議者、決裁者)を確認します。そして、会社指定の与信限度申請書に必要事項を記載して申請します。営業部門は申請書の中で取引先の経営内容を定量情報、定性情報などの信用調査の内容だけでなく、営業部門でしか把握のできない以下のような内容を記載し、取引の妥当性について説明します。

 ■与信限度申請書の記載事項

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 ・商品品目:具体的な商品名、用途、単価

 ・取引経路:仕入先、最終需要家、物流

 ・取引経緯:取引動機、紹介相手

 ・販売予定:予定月商、利益率、季節変動

 ・決済条件:回収サイト、決済方法(現金か手形)

 ・契約有無:基本契約、納品書・受領書の有無

 ・管理状況:訪問状況、取得担保と担保価値

 ・取組方針:今後の営業方針

 ――――――――――――――――――――――――――――

与信限度の申請時には、審議者および決裁者の判断の手助けとなる資料を添付する。具体的には取引先の決算書、信用調書など信用状態を示す書類や担保・保証内容、訪問レポートなど管理状態を示すものが挙げられる。

(2) 与信限度の審議

審議を行う管理部門は、申請書を受け取った後、申請内容を十分に検討し、必要に応じて営業部門に追加資料の提出を求め、あるいは独自の調査を行い、その審議意見を付したうえで決裁権限者に回付します。

管理部門による独自の調査が必要な場合、営業部門はその調査に全面的に協力します。管理部門は真偽に際し、取引先または取引条件に問題があると判断したときは、営業部門に対して当該申請の中止または変更を勧告します。

 ■与信先の審議時のチェック事項

  ――――――――――――――――――――――――――――

 ・自社の取引シェアが高まっていないか

 ・決済条件や取引条件が守られているか

 ・取得担保の価値が変化していないか

 ・担保維持に必要な書類を入手できているか

 ・取引基本契約は有効か

 ・注文書・納品書など取引を証明する書類は作成されているか

 ・その他信用不安情報が流れていないか

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(3) 与信限度の決裁

決裁者は取引における最終決定者であり、取引における責任者となります。決裁者は管理部門が担うか、営業部門が担うかは会社の方針によって異なります。与信管理の責任は、取引先の窓口を担っている営業部門にあり、また販売予算の達成への責任も負っていることから決裁者は営業部門の長が務めることが一般的です。

決裁者は、営業部門からの申請内容および管理部門での審議意見を考慮し、申請を妥当と認めた場合には決裁します。決裁をする上で、必要に応じて営業部門や管理部門から直接意見を聞き、更なる調査を指示しまう。過大与信と判断される場合には、与信限度を減額するか有効な担保・保全手段を実行することを条件に条件付き決裁を行います。

決裁後、管理部門は関係部門に与信限度決裁の通知を行い、与信限度管理台帳(管理システム)に当該与信限度と有効期限を登録する。これにより与信限度は継続され、営業部門は決裁された与信限度、決裁条件を常に確認し、超過や相違がないように取引を行います。また申請フローで確認した取引先の経営内容や取引の留意点を基に、常に変化がないかを確認し、異変を見逃さないよう気を配ります。


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