企業が取り組むべき「反社」対応 ~(前編)反社会的勢力とは何か~
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企業が取り組むべき「反社」対応 ~(前編)反社会的勢力とは何か~
はじめに
反社会的勢力を社会から排除していこうという動きは年々強まる一方です。この動きは平成19年6月に政府が犯罪対策閣僚会議幹事会申合せという形で「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(以下「平成19年指針」といいます)を発表して以降、加速しました。
平成20年には、当時東証2部に上場していた不動産開発会社が、反社会的勢力との関係が取り沙汰された会社に立ち退き業務を委託していたことが判明し、その後、その企業の信用は失墜し、最終的に民事再生を申し立てるに至りました。最近でも日本ボクシング連盟の会長の暴力団組長との交際が問題となり、会長が辞任に至りました。現在では、企業が反社会的勢力と取引をしていたり、役職員が密接に交際していたりするだけで、当該企業には回復し難い信用の毀損が生じます。
それでは、具体的にどのように反社会的勢力排除に向けて行動していけばよいのでしょうか。
以下では、企業のとるべき反社会的勢力対応についてご説明します。
反社会的勢力とは何か
(1) 反社会的勢力を判断するためにまず、排除すべき対象となる「反社会的勢力」とは何でしょうか。この用語は法律上、明確に定義づけられているわけではありませんが、平成19年指針では、「反社会的勢力」を「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」と述べています。さらに平成19年指針では、反社会的勢力を判断するためには、次の2つの側面に着目すべきだと述べています。
① 属性要件(暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、政治活動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性)
② 行為要件(暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為)つまり、属性だけではなく、行為が不当であれば、反社会的勢力と判断して、関係遮断を考えるべきということになります。次に、最近の契約書や規約に導入されている反社会的勢力排除条項(いわゆる「反社排除条項」「暴力団排除条項」「暴排条項」)で、よく記載される属性について説明します。
(2) 暴力団・暴力団員
その団体の構成員が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体(警察庁「組織犯罪対策要綱」以下「要綱」といいます)のことを暴力団といいます。
また、暴力団の構成員のことを暴力団員といいます。暴力団の中で、暴力団対策法により指定を
受けている暴力団(平成30年8月時点で24団体)のことを、指定暴力団といいます。
(3) 暴力団準構成員
暴力団又は暴力団員の一定の統制の下にあって、暴力団の威力を背景に暴力的不法行為等を行うおそれがある者。暴力団若しくは暴力団員に対し資金、武器等の供給を行うなど暴力団の維持若しくは運営に協力する者のうち暴力団員以外の者(要綱)のことをいいます。
(4) 暴力団関係企業
暴力団員が実質的にその経営に関与している企業。準構成員若しくは元暴力団員が実質的に経営する企業であって暴力団に資金提供を行うなど暴力団の維持若しくは運営に積極的に協力、若しくは関与する企業。業務の遂行等において積極的に暴力団を利用し暴力団の維持、若しくは運営に協力している企業(要綱)のことをいいます。
(5) 総会屋
株主として株主総会に出席資格を有することを利用し、総会の議事進行に関し、金をくれれば会社に協力し、金をくれなければ会社を攻撃するという行動に出ることにより、会社から株主配当金以外の金員を収得している者のことをいいます(裁判例)。
(6) 社会運動標ぼうゴロ・政治活動標ぼうゴロ社会運動若しくは政治活動を仮装し、又は標ぼうして、不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活の安全に脅威を与える者をいいます(要綱)。いわゆるエセ右翼、エセ消費者団体などです。
(7) 特殊知能暴力集団
暴力団との関係を背景に、その威力を用い、又は暴力団と資金的なつながりを有し、構造的な不正の中核となっている集団又は個人をいいます(要綱)。仕手筋、ヤミ金融、振り込め詐欺グループなどです。
(8) 共生者
暴力団に利益を供与することにより、暴力団の威力、情報力、資金力等を利用し自らの利益拡大を図る者をいいます(要綱)。
(9) 密接交際者
反社会的勢力排除条項では、反社会的勢力と密接な関係を有する者も排除対象として定めていることも多いです。「密接な関係を有する」とは、例えば次のような関係です。
① 反社会的勢力が実質的に経営を支配する法人等に所属する者
② 反社会的勢力を雇用している者
③ 反社会的勢力を不当に利用していると認められる者
④ 反社会的勢力の維持、運営に協力し、又は関与していると認められる者
⑤ 反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していると認められる者
これらのうち⑤の「社会的に非難されるべき関係」について警視庁は、例えば以下のような関係であると説明しています(警視庁ホームページ)。
・相手が暴力団員であることを分かっていながら、その主催するゴルフ・コンペに参加している場合
・相手が暴力団員であることを分かっていながら、頻繁に飲食を共にしている場合
・誕生会、結婚式、還暦祝いなどの名目で多数の暴力団員が集まる行事に出席している場合
・暴力団員が関与する賭博等に参加している場合
(10) 元暴力団員
反社会的勢力排除条項では、過去に暴力団に属していた者も排除対象とすることが多いです。暴力団を辞めてからの年数は、5年以内とすることが一般的です。
◆後編では企業のとるべき有事の対応(排除に向けて)をご説明いたします。
松田綜合法律事務所 森田岳人 編/リスクモンスター株式会社 構成
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森田 岳人(もりた たけと)
松田綜合法律事務所 パートナー弁護士
東京大学卒。2004年弁護士登録(東京弁護士会)。主に一般企業法務、IT法務、個人情報保護法などを取り扱っています。東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会に所属し、暴力団排除の研究・実践や被害者の救済活動にも取り組んでいます。