企業が取り組むべき「反社」対応  ~(後編)有事の対応 排除に向けて~

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企業が取り組むべき「反社」対応  ~(後編)有事の対応 排除に向けて~

有事の対応(排除に向けて)

 

(1) 反社会的勢力への対応プロセス

 

取引先が反社会的勢力であったり、役職員が反社会的勢力と密接な関係を有していることがわかったりした場合、企業としては慌てたり恐れたりすることなく、次の3つの段階を意識し、それぞれを冷静かつ確実に行うことが重要です。

 

  事実確認・調査

  リスク評価

  対応方針の決定・実行

 

 

(2) 事実確認・調査

 

様々なきっかけで、取引相手等が反社会的勢力ではないかとの疑いが生じることがあります。例えば業界の噂話、新聞や週刊誌の報道、日常の取引での異常(相手の指が欠損、入れ墨、事務所内の装飾が異様、脅迫的言動等)などです。そのような場合には、まずできる範囲で徹底した事実確認や調査が必要です。方法は、自分で行う調査(自助)、業界団体の助けを借りて行う調査(共助)、公共機関の助けを借りて行う調査(公助)があります。自助としては次の方法があります。

 

  ①商業登記簿で本店所在地、役員、代表者の住所地などを確認。 

   本店所在地と実際の営業所の所在の齟齬、不自然な商号・本店所在地・取締役の変遷などが

   ないかをチェック。

 

  ②不動産登記簿で本店所在地、代表者の住所地を確認。 

   不自然な所有権移転や担保設定がないかをチェック。

 

  ③相手の会社名や人名をインターネット検索。 

   ただし、情報が不正確なことも多々あるので、留意が必要。

 

  ④ 新聞社等がインターネットを通じて提供している過去の記事の検索サービスを利用して、

   過去の検挙情報などを検索。

 

  ⑤ 反社会的勢力の独自データベースを保有している調査会社のサービスを利用。

 

  ⑥日常的に反社チェックが必要となる業種では自社データベースの構築と運用も検討すべき。

   日々の報道や取引で得た懸念情報を社内で蓄積することで、

   迅速かつ有益な反社チェックが可能。

 

 

(3) リスク評価

 

事実確認・調査を行ったら、それに基づきリスク評価を行います。このまま関係を継続した場合に自社に生じ得るリスクと、関係を遮断した場合に自社に生じ得るリスクを洗い出して、その重要度を評価します。洗い出すリスクとしては、次の内容について考える必要があります。

 

【反社会的勢力と思しき者との関係を継続した場合のリスク】

  ・監督官庁や証券取引所から処分を受けるリスク

 

  ・金融機関からの取引停止リスク

 

  ・報道された場合の信用毀損リスク

 

  ・不当な取引を強要されて財産を流出させるリスク

 

  ・それらに伴う役員としての損害賠償責任が問われるリスク

 

【反社会的勢力との関係を遮断した場合のリスク】

 

  ・反社会的勢力から現場の従業員が脅迫や暴行を受けるリスク

 

  ・不当な取引拒絶だとして損害賠償請求を受けるリスク

  (ただし、これらは警察から保護を受けることや、弁護士に対応を依頼することなどで、

   多くの場合適切にコントロール可能)

 

 

(4) 対応方針の決定・実行

 

事実確認・調査、リスク評価が終われば、あとは対応方針を決定し、その決定された方針に基づいて実行することになります。対応方針を決定するときには、会社に与える影響の大きさから考えても、一部署だけではなく、取締役会等の経営トップの意思決定機関において決定すべきです。

 

相手が反社会的勢力であり排除すべきという決定をした場合には、警察、弁護士など外部の専門家の協力を得ながら、関係を遮断していくことになります。遮断の具体的プロセス(通知書の送付先、送付方法、電話での連絡窓口、来訪時の対応者、対応方法など)を綿密に打ち合わせて準備しておく必要があります。また、時には現場の従業員の身の安全を図るために、警察に保護対策を要請すべきでしょう。

 

ただ最近では、相手が明らかな反社会的勢力であるといった事案は少なく、どうも怪しいがはっきりとはわからないという、いわゆるグレー事案が大半です。しかし、相手の素性がはっきりわからないからといって安易に関係を継続すると、後にその関係が報道等で公になった場合、社会から強烈な非難を受けるおそれがあります。したがって、相手の素性がはっきりせず、ただちに反社会的勢力排除条項を利用した契約解除まで踏み切れない場合であったとしても、徐々に取引を減らしたり、契約を更新せず期間満了で終了させるなど、穏便な形で関係を終了させる方法も検討すべきでしょう。

 

また、グレー事案で取引を継続せざるを得ないと決定した場合であっても、後に問題になったときに説明責任を果たせるように、検討過程を記録・保存しておくことや、相手を継続的にモニタリング(現場で異常な言動がないか、報道がないか、行政処分を受けていないか等を監視)しておくことが必要です。

 

平常時の対応(事前の準備)

 

(1) 有事を事前に防ぐために

 

ここまでは、相手に反社会的勢力の疑いがあるとわかった後の有事対応について説明しましたが、有事がおきないようにするため、また仮に有事がおきても迅速かつ適切に対応するためには、平時からの備えが必要です。

 

 

(2) 反社会的勢力排除条項の導入

 

まずは取引において使用している契約書、規約、約款などに、反社会的勢力排除条項を導入しましょう。反社会的勢力排除条項は、最近は相当広まっており、当職の実感としても8割以上の契約書等に記載されています。まだ導入されていない企業は、ただちに導入すべきです。その際には、全国銀行協会が公開している「銀行取引約定書に盛り込む暴力団排除条項参考例」を参考にするのが良いでしょう。

 

 

(3) 役職員の反社排除意識の徹底

 

企業が反社会的勢力と関係を持たないようにするためには、自社の役職員に対して、反社会的勢力と関係をもつことのリスクを認識させ、一切の関係をもたせないことが必要です。対策としては、役職員に反社会的勢力排除のための研修を行ったり、就業規則や誓約書に反社会的勢力との関係をもつことの禁止を明記したりすることが考えられます。

 

 

(4) データベースを利用した入り口での排除

 

取引を開始するときに、相手を自社の反社会的勢力データベースや外部のデータベースなどで調査し、反社会的勢力の懸念がある場合には、取引を始めないようにすることも有用です。いったん取引を始めた後に遮断することは大変ですが、取引を始める前であれば比較的容易に遮断が可能です。

 

 

あとがき

 

以上、企業が取り組むべき反社会的勢力への対応について説明をしてきました。

各企業においては、反社会的勢力と関係をもつことのリスクの大きさを今一度認識していただき、反社対応体制の構築や見直しにお役立てていただければ幸いです。

 

 

松田綜合法律事務所 森田岳人 編/リスクモンスター株式会社 構成

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森田 岳人(もりた たけと)

松田綜合法律事務所 パートナー弁護士

東京大学卒。2004年弁護士登録(東京弁護士会)。主に一般企業法務、IT法務、個人情報保護法などを取り扱っています。東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会に所属し、暴力団排除の研究・実践や被害者の救済活動にも取り組んでいます。

 

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