下請法改正で「従業員数」も適用基準に!下請法違反事例と対象企業の調べ方を解説

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下請法とは

下請代金支払遅延等防止法(通称:下請法)は、親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるために昭和31年に制定された法律です。この法律は、下請取引の公正化を図り、下請事業者の利益を保護することを目的としています。

 

下請法の改正について

下請法改正法案にて名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する 代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に変更され、内容も改正されます。
下請法改正の背景・趣旨としては以下とされています。
「近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、「物価 上昇を上回る賃上げ」を実現するためには、事業者において賃上げの原資の 確保が必要。 中小企業をはじめとする事業者が各々賃上げの原資を確保するためには、 サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」 の実現を図っていくことが重要。 例えば、協議に応じない一方的な価格決定行為など、価格転嫁を阻害し、 受注者に負担を押しつける商慣習を一掃していくことで、取引を適正化し、 価格転嫁をさらに進めていくため、下請法の改正を検討してきた。」

【参考】下請法・下請振興法改正法案の概要(令和7年5月)│ 公正取引委員会、中小企業庁

施行期日は令和8年1月1日(ただし、一部の規定は法律の公布の日から施行)とされています。

したがって、親事業者(改正後:委託事業者)にあたる企業は、早期の段階で下請法対策を自社で対応できているか確認する必要があります。

 

下請法の適用対象

下請法の対象となる取引は、事業者の資本金規模と取引の内容で定義されていましたが、改正法案にて規制及び保護の対象を拡充するために、従業員基準も新たに設けられます。
今まで該当しなかった取引先についても対象になる可能性があるため、どの取引先が適用対象に入るのかを改めて確認すべきです。

 
①取引の内容

下請法の適用対象となる取引内容は「製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託」の4つです。

 

1. 製造委託
物品を販売し,または製造を請け負っている事業者が,規格,品質,形状,デザイン,ブランドなどを指定して,他の事業者に物品の製造や加工などを委託することをいいます。ここでいう「物品」とは動産のことを意味しており,家屋などの建築物は対象に含まれません。

2. 修理委託
物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり,自社で使用する物品を自社で修理している場合に,その修理の一部を他の事業者に委託することなどをいいます。

3. 情報成果物作成委託
ソフトウェア,映像コンテンツ,各種デザインなど,情報成果物の提供や作成を行う事業者が,他の事業者にその作成作業を委託することをいいます。情報成果物の代表的な例としては,次のものを挙げることができ,物品の付属品・内蔵部品,物品の設計・デザインに係わる作成物全般を含んでいます。
例:プログラム、 影像や音声,音響などから構成されるもの 、文字,図形,記号などから構成されるもの

4. 役務提供委託
 運送やビルメンテナンスをはじめ,各種サービスの提供を行う事業者が,請け負った役務の提供を他の事業者に委託することをいいます。ただし,建設業を営む事業者が請け負う建設工事は,役務には含まれません。

 

取引内容によって資本金区分や従業員区分が異なり、下請取引に該当するかが分かれます。しっかりとどの取引内容にあたるか確認するようにしましょう。

 

②資本金区分

取引内容と自社の資本金によって、下請法が適用される下請事業者(改正後:中小受託事業者)の資本金区分が変わります。

(1)物品の製造・修理委託及び政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合
 ※下請事業者は個人を含む

 

(2)情報成果物作成・役務提供委託を行う場合((1)の情報成果物・役務提供委託を除く。)
 ※下請事業者は個人を含む

 

③従業員基準(改正法案にて追加)

企業の「下請法逃れ」を防ぐために、新たに従業員基準を追加すると改正法案で示されています。
製造委託等の場合は委託側が従業員数300人超の場合、中小受託側が従業員300人以下(個人を含む。)の場合に適用、役務提供委託等の場合は委託側が従業員数100人超の場合、中小受託側が従業員100人以下(個人を含む。)の場合に適用されます。

【引用】下請法・下請振興法改正法案の概要(令和7年5月)│ 公正取引委員会、中小企業庁

 

親事業者の禁止事項と義務に違反した場合は?

下請取引の公正化及び下請事業者の利益保護のために、下請取引を行う際、親事業者(改正後:委託事業者)には、4つの義務(書面の交付義務、支払期日を定める義務、書類の作成・保存義務、遅延利息の支払義務)が定められています。

【引用】親事業者の義務│ 公正取引委員会

 

また、下請事業者が親事業者からの不当な取扱いを受けないようにするために、下請法では、親事業者にたいして11の禁止事項を定めています。

【引用】親事業者の禁止行為│ 公正取引委員会

 

親事業者が下請法に違反した場合には、公正取引委員会が指導または勧告を行い、当該違反行為の是正を図るほか、減額された下請代金については、下請事業者に対し返還を命じることがあります。なお、勧告がなされた場合には、「下請法勧告一覧」において、当該企業名等が公表されてしまいます。

【参考】下請法勧告一覧 │ 公正取引委員会

公正取引委員会によって公表されている企業数は年々増加しています。
2025年度には5月下旬時点で既に6社の勧告がされており2020年度や2021年度の件数を1ヵ月で上回っています。
下請法が改正された場合、さらに勧告される企業数は増加すると考えられます。

 

下請法違反は単なる法令違反ではなく、企業の社会的信用を失墜させ、株価下落や取引停止リスクを招く重大な経営課題です。過去に公正取引委員会から指摘を受けた代表的な違反事例を取り上げ、違反がもたらす影響や企業価値へのダメージについて解説します。

 

事例1:株式会社ビックカメラ

2025年2月、公正取引委員会はビックカメラに対し、下請代金を不当に減額したとして下請法違反(下請代金の減額)の勧告を行いました。同社は自らの店舗等で販売する家庭用電気製品等の製造を委託する下請事業者51名に対し、「拡売費」や「販売支援金」など複数の名目で約5億5746万円を一方的に下請代金の額から減額していました。減額は2023年7月から約1年間続きました。ビックカメラは勧告を受け、減額した金額を全額下請事業者に支払い、再発防止策を実施しています。

 

事例2:株式会社シャトレーゼ

2025年3月に公正取引委員会は洋菓子メーカーのシャトレーゼに対して、下請法違反(受領拒否および不当な経済上の利益の提供要請)で勧告を行いました。同社は自社の店舗等で販売する洋菓子等の包装資材や原料製造を委託している下請事業者11名に対し、2024年12月時点で約2,383万円分を正当な理由なく受領せず、無償での商品保管を対応させていました。公正取引委員会は未受領分商品の受領、受領できない場合は商品の下請代金相当額の払い、保管費用の清算、再発防止体制整備を勧告しました。

 

事例3:株式会社KADOKAWA、株式会社KADOKAWA LifeDesign

2024年、公正取引委員会は大手出版社KADOKAWAと子会社に対し、下請法違反で勧告を行いました。同社は、雑誌「レタスクラブ」の記事作成や写真撮影を担当する下請事業者の報酬を、一方的に最大約39.4%引き下げていたため、下請法違反(買いたたき)として違反が認定されました。
(株)KADOKAWA LifeDesignは、令和6年4月1日、吸収分割により、雑誌「レタスクラブ」の発行事業をKADOKAWAから全て承継していました。
公正取引委員会は下請代金の額について、引き下げた単価を適用した時期に遡って引き上げることなど速やかな是正と再発防止を勧告しました。

 

適用誤認による法令違反リスクと、開始時の確認の重要性

下請法が定める11の禁止行為、たとえば不当な代金の減額などを行わないことは、企業として当然の責任です。しかし、これを確実に守るためには、まず自社のどの取引先が下請法の適用対象かどうかを正しく把握しておくことが非常に重要になります。下請法の適用は、親事業者と下請事業者の資本金規模や従業員数、取引内容によって決まるため、対象かどうかを誤って判断してしまうと、知らないうちに法令違反となるリスクがあります。法令を遵守するためには、下請法の適用対象となるかどうかを確認し、適切な管理体制のもとで対応することが求められます。

 

下請法に適用する対象はどう調べるべきか?

適用対象の区分として取り扱われる資本金や従業員数は取引開始時に調べたとしても、数ヵ月後や数年後には変化するため定期的なメンテナンスが必要です。
しかし、「取引先が多い」、「取引先データの名寄せができていない」、「調べる時間がない」と自社での対策に悩みを抱えている親事業者が増加しています。

 

下請法への対応方法

1. HP等で確認をする

取引先のHPから資本金と従業員数を確認する方法は、ツールを使わずに確認できる方法の1つです。
ただし、多くの取引先を抱えている企業は確認工数が膨大になってしまう、HPが更新されていない場合やHPが存在しない場合は確認が難しいといったデメリットがあります。

2. 商業登記簿を取得する

取引先の商業登記簿を取得して資本金を確認する方法も、自社で対応できる方法の1つです。
HP等で確認をする場合よりも、正しい情報を確認することができます。
ただし、商業登記簿の取得には費用がかかり、さらにどのタイミングで資本金が変更されるか分からないため、内容の確認・精査の作業時間がかかってしまいます。
さらに、下請法改正で基準として追加された従業員数は商業登記簿では確認ができないため、HP等で確認をする必要が出てきます。

3. 外部へ調査依頼をする

企業の資本金や従業員数を常に収集している企業へ調査依頼をする方法は、コストも作業工数も抑えて確認できます。

リスクモンスターの『下請調査支援サービス』では、お客様の取引先データの名寄せから資本金や従業員数のデータ提供、そして取引先の商業登記簿記載の資本金が変動した際にはメールにて変動の旨をお知らせすることも可能です。
したがって、一度取引先データを共有いただくことで、どの企業が下請事業者の対象になるか手間をかけずに確認し続けることができます。

>>『下請調査支援サービス』に関する資料はこちら

>>料金など詳細については こちら からお打合せ日程調整をお願いいたします。

 

正確な対応には社員の皆様の知識習得が不可欠です
どの方法を選ぶ場合でも、下請法やその改正内容を正しく理解していなければ、適切な判断や対応ができません。
リスクモンスターの社員研修サービス『サイバックスUniv.』では、最新の法改正に対応したeラーニングを提供しており、実務担当者をはじめ、社内で関わるすべての社員が効率よく必要な知識を習得することが可能です。

>>下請法対応eラーニングの詳細はこちら


施行期日は令和8年1月1日(ただし、一部の規定は法律の公布の日から施行)とされています。
親事業者は下請法の適用対象を明確にした上で下請事業者との円滑な取引を行い、違反による勧告または指導、さらに企業名の公表によって信用力の低下に繋がらないよう対策を進めていきましょう。

 

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