反社チェックの必要性と4つの調査方法
企業のコンプライアンス強化が求められる中、反社会的勢力との取引リスクは、経営に深刻なダメージを与える可能性があります。具体的な事例として、反社会的勢力との関与が報道され、新規融資が停止されるなどの資金繰り悪化により、民事再生手続きに至ったケースや、反社会的勢力と密接な関係を持つと認定され、公共工事から排除され、破産申立てに至ったケースなどが挙げられます。
レピュテーションリスクの回避、金融機関との取引停止の防止、行政処分や上場廃止のリスク管理など、企業にとって反社チェックは不可欠なプロセスとなっています。本記事では、反社チェックの必要性と具体的な4つの方法を解説し、実際に反社取引が問題となった企業事例も紹介します。「なぜ反社チェックが必要なのか?」「どのように実施すべきか?」を明確にし、自社のリスク管理に役立てるための実践的なチェック方法を学びましょう。
1.反社会的勢力との取引排除に向けた取り組み
粉飾決算、有価証券報告書への不実記載、架空取引、リコール隠し、横領、背任、偽装など、企業による不正行為が相次ぐ中、企業におけるコンプライアンス強化とリスクマネジメントの徹底が求められています。特に、反社会的勢力との取引排除は、企業の信用維持や法令順守の観点から対策が必須の課題となっています。
日本国内では、2007年に政府が策定した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」や各都道府県で制定された暴力団排除条例により、企業は取引先の適正性をチェックし、不正な関係を未然に防ぐ責任があります。これに違反すれば、法的制裁だけでなく、社会的信用の低下や金融機関との取引停止、行政処分など深刻な経営リスクが生じるため、企業は徹底した対策を講じる必要があります。
そのため、多くの企業では反社会的勢力によるリスクをチェックする取り組みが進められており、新規取引だけでなく、既存の取引先に対する定期的なチェックも実施される傾向にあります。近年では、デジタル化が進展する中でAIを活用したリスクスクリーニングの導入が検討されており、企業の負担を軽減しつつより効率的な反社会的勢力チェックが期待されています。
2.反社会的勢力とは何か
反社会的勢力というと、イコール「暴力団」というイメージがありますが、それだけでは正しい理解とは言えません。2007年に政府の犯罪対策閣僚会議幹事会において定められた指針では、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」としており、その属性として、「暴力団」、「暴力団関係企業」、「総会屋」、「社会運動標ぼうゴロ」、「政治活動標ぼうゴロ」、「特殊知能暴力集団等」と挙げています。また、そのほかに、「暴力団準構成員」、「共生者」、「密接交際者」、「元暴力団員」、「準暴力団」といった属性も排除されるべき反社会的勢力に挙げられます。
「反社会的勢力」を判断するためには、上記の属性要件に着目するとともに、「暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件」にも着目し、属性だけでなく、行為が不当であれば、反社会的勢力と判断して関係遮断を考える必要があるといえます。以上のように、反社会的勢力に関しては、その定義はあるものの、白黒つけるのは簡単ではなく、黒に近いグレーに対して如何に対応していくかが課題となります。

3.反社会的勢力との取引リスク
反社会的勢力と取引を行うということは、暴力団や詐欺集団などに対して、活動するための資金を提供することになります。人々が安全に生活するために反社会的勢力の排除が重要となるほか、企業にとっても以下のようなリスクを回避する観点から、反社会的勢力との取引を行わないことが重要といえます。

また、企業にとって経営ダメージにつながるリスクとして、レピュテーションリスクが存在しています。レピュテーションリスクとは、反社会的勢力との取引が明るみになって企業イメージが低下することで、事業運営に支障が生じ、業績悪化につながる風評リスクを指します。時には、企業が反社会的勢力から恐喝を受けるようなことも考えられますし、経営者が反社会的勢力と取引を行った責任を負い、辞任したりすることもありますので、経営に与えるダメージは少なくありません。
一方、反社会的勢力との取引を遮断する場合においても、反社会的勢力から危害を加えられる、不当要求を受ける、訴訟を提起されるといったリスクが考えられます。これらのリスクに対しては、リスクの度合いに応じて適切にコントロールすることが重要であり、弁護士を活用しながら、警察等の外部機関と連携して対応することが必要となります。
4.反社取引が問題となった7つの企業事例とリスク
反社取引が問題となった具体的な事例としては、それぞれ以下のようなものが存在しています。
事例① 直接的な被害を受けるリスク
2017年6月に発生した積水ハウス地面師事件では、積水ハウスが、真の所有者になりすました者その他複数名のいわゆる地面師グループにより、第三者経由で土地及び建物の所有権を取得できると欺罔され、売買代金等名目で55.5億円を騙し取られる詐欺被害にあっています。
事例② 法令違反になるリスク
2021年4月、地場大手の設備工事業者であった九設の社長が、暴力団の組長と飲食等を共にしたことから、福岡県警により、九設が暴力団と「密接な交際、または、社会的に避難される関係」を持つと認定され、公共工事から排除される排除措置の対象となり、対外的な信用の低下し、銀行口座の凍結や取引先からの取引中止も相次ぎ、破産申立てをするに至っています。
事例③ 金融機関との取引停止リスク
平成7年に東証2部に上場していたスルガコーポレーションが、用地取得の際に、立退き等を依頼した関係者らが反社会的勢力又はその疑いがあると広く報道されたことで、銀行がスルガコーポレーションに対する新規融資を停止し、立退き交渉が行われた不動産の売却も困難になり、急激な資金繰りの悪化により、黒字のまま民事再生手続きを申請するに至っています。
事例④ 行政処分をうけるリスク
百十四銀行九条支店において、平成19年6月から平成20年1月までの間、18回にわたり、元暴力団組員が実質的に経営する会社4社に対し、回収の見込みがないにも関わらず、大半は無担保で、合計10億5000万円の融資を実行したとして、支店長が、百十四銀行を懲戒解雇されたほか、特別背任罪で逮捕され、実刑判決を受け、百十四銀行自体も内部管理態勢に問題があるとして、四国財務局から業務改善命令を受けることとなりました。
事例⑤ 上場廃止になるリスク
セントレックスに上場していたオプトロムが、平成26年2月27日、第三者割当増資を実施するにあたって、信用調査会社の結果として、割当先の親会社に反社会的勢力等や違法行為と関わりに懸念のある人物が指摘されたにもかかわらず、その事実を伏せ、また翌年の新たな第三者割当増資の際に、取引所から当該事実を指摘されたにもかかわらず、追加調査をしたという虚偽の事実を報告したため、最終的に上場廃止とされています。
事例⑥ 多額の損害賠償を支払うリスク
蛇の目ミシン事件では、蛇の目ミシン工業は、株主である仕手集団「光進」のAによる恐喝行為に対し、その要求に応じなければ株式が暴力団関係者に譲渡される可能性を恐れ、経営への干渉、会社の信用毀損、そして会社そのものの崩壊を防ぐために、同グループに利益を供与しました。
この「光進」グループへの利益供与に関連する融資判断による損失に関して株主代表訴訟が提起され、当初、東京地方裁判所において939億円の損害賠償が請求されました。その後、2008年(平成20年)に東京高等裁判所は、当時の旧経営陣5人に対して583億6,000万円の賠償命令を下しました。
事例⑦ 信用が失墜するリスク
2023年6月20日、東証プライム上場企業である三栄建築設計の元社長が指定暴力団「住吉会」系の暴力団幹部に対して189万円の小切手を供与した疑いで、東京都公安委員会から東京都暴力団排除条例に基づく勧告を受けたことが明らかになりました。この事件は、社会的信用を失墜させ、同社の業績に大きな打撃を与えました。
これらの事例のように、反社会的勢力との取引は、企業において致命的なダメージに繋がりかねないため、反社会的勢力との取引に巻き込まれないための対応として、「反社チェック」が必要となります。
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5.反社チェックの一般的な方法
「反社チェック」における一般的な調査方法としては、以下の方法が挙げられます。
①Web検索による調査
②新聞・雑誌記事検索による調査
③業界団体等が提供するリスト等による調査
④調査会社による調査
反社チェックの方法① Web検索による調査
自社調査による最も簡単な反社チェックの手法として、インターネット検索エンジンを用いて検索する方法があります。
「Yahoo!JAPAN」や「Google」等のインターネット検索エンジンにおいて、取引先の「商号」や「代表者」、「役員」、「主要株主」等をキーワード検索することで、無料でインターネット上の記事を検索できる点がメリットといえます。しかし、ヒットした件数が多いと確認作業に多大な時間と手間がかかったり、反社会的勢力に関する情報に絞って検索するには相応の経験やコツが必要となるというデメリットがあります。
反社チェックの方法② 新聞・雑誌記事検索による調査
Web検索による調査と同様に、反社チェックの手法として多くの企業で実施されている方法として、新聞・雑誌記事検索による調査があります。
新聞・雑誌記事検索と言っても、新聞や雑誌を1誌ずつ確認するのではなく、新聞記事データベースサービス(日経テレコン、G-Search、Newsモンスターなど)を用いて、取引先の「商号」や「代表者」、「役員」、「主要株主」等と、「不祥事」や「事故」、「逮捕」等の反社関連のネガティブキーワードを一緒にキーワード検索する方法となります。全国紙から地方紙まで幅広い新聞記事を手軽に一括検索できる点が大きなメリットになりますが、Web検索と同様のデメリットがあることに留意が必要です。
また、「代表者」や「役員」、「大株主」などの人名検索の場合には、同姓同名の他人がヒットすることも多いという点も忘れてはなりません。
反社チェックの方法③ 業界団体等が提供するリスト等による調査
業界団体等による公知情報の提供としては、日証協や全銀協、生保協会等の各業界団体による情報提供が挙げられます。また、公的団体による情報提供には、 警察や都道府県暴力追放運動推進センター、警視庁管内特殊暴力防止対策連合会等の情報提供が挙げられます。
情報においては、対象者に対して反社会的勢力の懸念情報がないと回答を得られないことが多いことに留意する必要があります。
反社チェックの方法④ 調査会社による調査
取引先に対して、入念に調査を行いたい場合には、信用調査会社への調査が有効となります。信用調査においては、企業向け調査か個人向け調査か、どのような点を重点的に調べたいのか、どのような方法で調査してほしいのか、によって依頼すべき信用調査会社も変わってきます。
調査会社による調査を行うことで調査精度を高めることができますが、1件当たり数万円と他の調査方法に比べて費用面での負担は非常に大きいというデメリットがあります。
このように、「反社チェック」の手法は一つではなく、多くの情報を集めるためには、相応の手間やコストがかかることとなります。さらには、情報を収集しても、明らかに反社会的勢力であると判断できる情報は希少であるため、判断が難しいことも少なくありません。
このような課題を解決する手段として、リスクモンスターでは、当該企業だけでなく、代表者や役員、グループ会社までチェック対象として、事件・事故記事や行政処分、裁判情報などの情報をワンストップで検索し、リスクの大小と所在を視覚的に確認できるツール「反社チェックヒートマップ」をご提供していますので、少しでもご興味のある方はぜひ一度ご覧ください。