道路貨物運送業
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10-1.道路貨物運送業【与信審査編】(産業分類コード44)
(1) 市場概要
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① 営業種目
一般貨物自動車運送業
特定貨物自動車運送業
貨物軽自動車運送業
集配利用運送業
その他の道路貨物運送業
② 業界規模
総売上高 39兆9,691億円
上場企業数 27社
非上場企業数 51,520社 -
③ 業界サマリー
道路貨物運送業は、業態によって「トラック運送業(貨物自動車運送業)」と「宅配便業(集配利用運送業)」に大別される。斯業種は、国内貨物輸送量の約9割を担う社会インフラであり、生産者、製造業者、卸売業者、小売業者、最終消費者など、幅広いステークホルダーの活動を支える役割を果たしている。
【取扱製品の特性】
運送物として、最も多く取り扱われるのは、「一般消費財」(食品、日用品、衣料品など)であり、宅配便業においては、電子商取引(EC)拡大を背景として、小口荷物を中心に配送件数が増加している。トラック運送業では、産業用部材や機械部品、建築資材など「中・大口貨物」の比重が高く、特にBtoB取引における製造業向け輸送が大きな割合を占める。
【業界構造】
道路貨物運送業は、物流インフラとして国民生活や産業活動を支える社会的役割を担う観点から、輸送の安全確保や労働条件の適正な管理、環境負荷の軽減等に関して、法的規制が厳しく課されている。他方で、同業界は、多くの民間事業者が事業拡大のためにしのぎを削っており、市場性と公共性という二面性を併せ持っている。
【法律関連】
道路貨物運送業においては、「道路運送法」に基づいて、輸送の安全確保、運賃制度、事業許可、運行管理などに関する基準を遵守する必要がある。また、斯業種は、国土交通省の監督下にある許認可制事業であるため、業態に応じて異なる許認可や届出が必要となる。自動車運転者の労働環境については、「労働基準法」および「改善基準告示」により拘束時間や休息期間などが規制されている中、2024年4月以降、「働き方改革関連法」に基づく自動車運転者の時間外労働の上限適用(年960時間)によって、労務管理面での規制が強化された(以下、2024年問題)ことで、運行効率の向上と省力化の推進が重要な経営課題となっている。そのほか、「輸送安全規則」や「自動車NOx・PM法」などの法令により、安全性の確保および環境負荷の低減が義務付けられており、法令遵守への対応が不可欠となっている。
(2) 業界の特徴・商流・収益構造
【業界の特徴】
「トラック運送業」は、荷主(主に企業)から貨物を受け取り、トラックなどの自動車を使用して目的地まで運送する事業であり、大型貨物や大量の貨物など多様な貨物を扱う点が特徴である。また、荷主や取り扱う貨物の性質、使用する車両の種類、輸送形態によって事業が複数に分類されている。
一方で「宅配便業」は、企業か個人かを問わず不特定多数の荷主から小口貨物を1個単位で受託し、集荷・配送を行う業態である。明確な料金体系(全国一律または地域別料金)や時間帯指定の配送サービスなどによる利便性の高さから、一般消費者を中心に幅広い需要を支えている。
斯業種は、燃料価格相場に採算が左右されやすい特性を有しているほか、運送業務や荷役作業などを人に依存する労働集約型産業であり、売上高に占める人件費の構成比が高くなるため、トラックドライバーの賃金水準や労働時間が収支に大きく影響する特性を有している。
【道路貨物運送業の商流】
斯業者は、荷主からの依頼に基づき、貨物の集荷、輸送、配送までを一貫して提供すること基本としているが、貨物量や輸送距離などによって、自社のみでの対応が非効率である場合には、元請業者となり、同業他社に庸車依頼し対応する相互補完の協業体制が広く採用されている。
また、近年では、斯業種における新たな業態として、元請けの物流会社が自社では運送を行わずに物流全体の管理のみを行い、実運送は外部業者に委託する「貨物利用運送事業(3PL)」の拡大も見受けられる。
主に製造業者・卸売業者・小売業者・EC事業者などが荷主企業となり、物流会社へ運送業務を委託する。特にトラック運送業は、ラストワンマイル配送において、貨物軽自動車運送業者が大手運送業者から業務委託を受ける形で配達を担うケースが多い。大手運送業者では、主に医薬品や精密機器などの輸送において、自社の物流拠点(ハブ・デポ)を用いて協力会社と全国的な輸送ネットワークを構築し、仕分け・中継・配送を効率的に実施する垂直統合型の物流サービスも展開している。一方で、斯業種の大多数を占める中小事業者においては、全国的なネットワークの構築が困難であるため、地域密着型の配送や特定荷主との定期契約輸送を担う事例が多いほか、物流工程の一部を担う運送の分業化と外部委託の活用が主要な運用形態となっている。
斯業種は、実車率の向上が経営効率に直結するため、積荷の安定的な確保は、事業者の課題となっている。特に、復路における空車回送が実車率に大きく影響するため、各社、上述の協業体制や輸送ネットワークの構築により、実車率の維持・向上を図っている。
【収益構造・財務分析】
(収益構造)
斯業種における主なコストは、固定費としてトラックドライバーの人件費や車両設備などの維持費・減価償却費があり、変動費として燃料費や輸送の外注費などがあげられる。車両が遊休化すると、固定費が嵩んで収益の圧迫につながるため、トラックの稼働を高める必要がある。また、実車率が低い場合には、トラックを稼働させるほど変動費が嵩みやすくなるため、配送の効率化が収益確保の重要な課題となる。
(収益性分析)
斯業種の売上高総利益率23.4%は、倉庫業や道路旅客運送業と比較して低い水準にある。採算面で劣る背景には、商慣習上、運送業者側で運賃を設定し難く、燃料費や人件費などの上昇分を運賃へ転嫁し難い点と、主に長距離運送などにおいて、復路での積荷確保ができないと空車回送が発生して採算の悪化を招く点があげられる。また、設備投資できずに老朽車両を使用し続けると、維持費や修繕費、税負担が増加し、減価償却期間終了後は減価償却費を経費計上できず課税所得が増えるなど、収益圧迫の要因となる側面も生じる。
(安全性分析)
斯業種は、多額の設備投資が伴うため、固定比率は高い水準となっており、車両を利用しない倉庫業を除いて類似業種も同様の傾向となっている。一方で、自己資本比率は37.2%、借入依存度は39.3%であり、設備投資負担が大きい反面、過度な借入依存にはなっておらず、財政面の安定性がうかがえる。
(効率性分析)
総資本回転率は1.2回であり、積極的な資産活用によって収益を上げる業態特性が反映されている。斯業種では、設備効率が重要となるため、業界標準程度の総資本回転率は確保したい。売掛債権回転期間は、類似業種に比べてやや長期である。荷主との力関係によって不利な回収条件を強いられると、資金負担につながるため、売掛債権回転期間が業界標準よりも長期間である場合は、長期化要因を把握すべきである。
(3) 業界動向
コロナ禍の「巣ごもり需要」によってEC市場が急拡大したことで、個人向け物流の取扱量が増加し、2022年度に宅配便取扱個数は50億個を超えた。貨物の取扱量が増加する一方で、貨物の輸送に欠かせないトラックドライバーの国内人口は、1995年(98万人)以降右肩下がりで推移しており、2030年には52万人まで減少する見通し(経済産業省 令和4年度産業経済研究委託事業 調査報告書)となっていることや、斯業種の輸送・機械運転従事者に対する有効求人倍率が、全職種平均を大幅に上回る水準で推移していることなど、斯業種での人手不足が深刻化している。
また、その一因として2024年問題が影響していることもおさえておかなければならない。斯業者は、2024年問題に対応すべく、トラックドライバーの長時間労働に依存した運営体制からの脱却を図っているが、それによって、トラックドライバー1人あたりの年間輸送可能時間や運行本数が減少し、ドライバーの年収低下を招いたことで離職増加を生じさせている。斯業者は、トラックドライバーの安定確保と2024年問題の両方に対応するために、ドライバー待遇の改善やIT技術の積極活用による輸送効率化などに取り組むことが求められている。
(4) 業界動向(業界天気図)
倒産確率からみた道路貨物運送業の天気は、2022/12期から4期にわたり小雨で推移した後、2024/12期にやや弱含みながら改善がみられたものの、依然として景況の不安定感は継続している。
注意報・警報においては、2024/12期に倒産警報が解除され、業界全体の景況は悪化傾向から脱したものの、2025/6期に格下げ警報が再発しており、景況の不安定感から倒産に対する警戒の必要性が表れている。
(5) 与信限度額の考え方
■与信限度額の設定方法
与信限度額とは、取引において自社が許容する信用供与の最大額であり、いかなる時点でも超過してはならないものである。与信限度額は、「必要かつ安全な範囲内」で設定する必要がある。必要な限度額は、取引実態を基に算出し、安全な限度額は、自社の財務体力や取引先の信用力(格付)を基に算出する。
●与信金額(必要な限度額)
実際の取引において、必要となる与信金額。道路貨物運送業に対して発生する与信取引としては、「車両、荷役機械」や「燃料」の販売による「売買取引」や、貨物運送に係る自社商品の「寄託取引」がある。また、輸送時における貨物の破損や散逸などの「輸送リスク」にも注意が必要となる。
与信金額 = 月間の取引金額 × 回収サイト
取引を行う際には、自社の取引条件が斯業界の平均水準から大きく乖離していないか、確認すべきである。買掛債務回転期間の業界標準値が「斯業界の平均的な支払サイト」を表しているため、「月間の取引金額×買掛債務回転期間の業界標準値」によって、与信金額の基準とすることができる。
道路貨物運送業に対する平均的な与信金額 = 月間の取引金額 × 0.8か月
●基本許容金額(安全な限度額)
基本許容金額は、自社の財政がどの程度の貸倒れまで耐えうるかを予め計ることで、自社の体力を超える取引に対する牽制機能を働かせるものであり、自社の財務体力と取引先の信用力を考慮して算出する。一例として、自社の自己資本額に対して、取引先の信用力(格付)に応じた割合を安全な限度額とする方法がある。
基本許容金額 = 自社の自己資本額 × 信用力に応じた割合
(例 : A格10%、B格5%、C格3%、D格0.5%、E格0.3%、F格0%)●売込限度額(安全な限度額)
販売先において、自社との取引シェアが高くなり過ぎると、自社が取引から撤退することが困難となる恐れがある。そのため、取引先の信用力(格付)に応じて取引シェアに上限を設けるべく、取引先が抱える買掛債務額の一定割合を売込限度額として設定する方法が考えられる。
売込限度額 = 買掛債務額 × 信用力に応じた割合
(例 : A格30%、B格20%、C格15%、D格10%、E格6%、F格0%)仮に、取引先の売上高情報しかなく、買掛債務額が不明な場合であっても、業界標準値を用いて売上高総利益率(23.4%)と買掛債務回転期間(0.8か月)から、以下のように買掛債務額を推定することができる。
買掛債務額 = 売上高/12[月商] ×(1-0.234)[原価率] × 0.8(か月)[買掛債務回転期間] = 売上高 × 0.051
(例:売上高100億円・A格の場合:100億円×0.051[買掛債務額]×30%[信用力に応じた割合]=1.5億円)(6) 与信管理のポイント
道路貨物運送業においては、荷主の継続的な確保と適正な運賃の収受によって、安定的な売上高を確保しつつ、ドライバーや保有車両を効率的に稼働させ、運行ロスを低減させることが収益の極大化につながる。
売上を維持・向上できる運行体制か否かを判断するために、同業他社との連携(共同配送網・庸車ネットワークなど)や配送対応エリア、輸送ネットワークの構築状況の把握が求められる。さらに、斯業種はドライバーの高齢化や慢性的な人手不足が課題となっており、安定して収益を確保するために、長期的な労働力となる若年層ドライバーの獲得、定着、育成に向けた取り組みの有無も重要な評価要素となる。
利益の確保においては、適切な運賃設定や運行ロスの低減が重要となる。運賃設定においては、配送距離や積載率、荷待ち時間などを考慮した原価把握が難しい状況下にて、実態に見合った運賃を設定することが課題である。運行ロス低減の観点においては、特に、長距離輸送における復路の積荷確保ができないと、空車回送による利益悪化を招くため、往路・復路両方の積荷を確保して高い実車率を維持し、効率的に配送を行うことが必要である。また、斯業種では、需要を超える過剰な保有車両は収益の圧迫を招くため、車両の稼働状況の確認は必須といえる点や、燃料価格の変動が利益に大きな影響を与えるため、売上高に対する燃料費の比率の変化についても把握しておきたい。 斯業種における車両の減価償却は、【収益構造・財務分析】にて記載した理由から、減価償却不足が生じやすいため、表面的な収支を鵜呑みにせずに、減価償却明細などを確認しながら実態を把握することが望ましい。また、近年は、貨物トラックなどに対しても脱炭素化・脱エンジンを迫られており、今後電動トラックへの移行などが義務化されれば、大規模な設備資金需要が発生することから、業界規制の動向や資金調達余力などについても把握すべきである。
運行管理面では、荷物の積載率や実車率、実働率などの運送効率の向上や、荷主側の都合による荷待ち・荷役遅延に対する待機時間への料金請求、待機時間の抑制など、収益向上策の実施状況が取引先評価のポイントとなる。
斯業種におけるコンプライアンスとしては、従前の安全運転管理、運行前の体調管理、飲酒・過労運転・過重労働などへの対応に加えて、2024年問題への対応も必要となっていることから、従来以上にコンプライアンス意識が求められる状況となっている。コンプライアンス違反時には、行政処分(指名停止処分、業務改善命令など)による業務の一時停止や罰金などの短期的な影響だけでなく、対外信用力の悪化が経営に大きな影響を与えるため、それらに関する信用不安情報の入手にも積極的に取り組むべきである。
斯業種においては、貨物事故・交通事故などに起因する損害賠償リスクが高く、保険加入はリスクヘッジの観点で重要となる。また、事故歴の多い事業者においては、補償条件が厳しくなったり、保険料の高騰により営業利益を圧迫したりするため、過去の事故発生件数や損害賠償の実績についても確認しておきたい。
【参考資料】
経済産業省:
「令和4年度産業経済研究委託事業 調査報告書」
中小企業庁:
「令和6年中小企業実態基本調査」
国土交通省:
「宅配便・メール便取り扱い実績について」
厚生労働省:
「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」
業種別審査事典
(一般社団法人 金融財政事情研究会)
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